大阪硝子産業史

株式会社山村製壜所 訪問報告書

    ー 取材を終えて ー
    初めてびん工場の見学をさせていただき、溶けたガラスが金型に移り成型していくそのスピードに圧倒されました。 大量生産をしている工場では、もっと速く、まさに火の玉が飛んでいるようだというお話には驚かされました。 ガシャンガシャンと機械の音が鳴り、夏場は暑いというより熱いに近いほど過酷な現場で生まれるガラスびんに、何とも言えない愛着を感じてきました。


    ■山村製壜所の歴史
    親会社の日本山村硝子(株)は、大正3年に西宮に山村製壜所として創業した。昭和30年に山村硝子(株)として法人化し、 ガラスやプラスチックの容器を製造していた。平成元年に広島硝子工業(株)と合併、平成10年に日本硝子(株)と合併して、日本山村硝子(株)となった。 現在もガラスびんのトップメーカーとして業界を牽引している。

    一方、昭和58年、ガラスの可能性を追求するための開発部門として (株)R&Dを設立し、翌年に(株)山村製壜所を設立した。 量産には不向きではあるがデザインに特徴のあるガラス容器を製造し、大量生産ではできない細やかな体制で小ロット・多品種に注力している。

    ■山村製壜所の強み~少量・多品種と多彩なカラーバリエーション~
    山村製壜所は1日2-3万本を生産しており、大手の1/10程度の生産数であるが、この小ロット生産がお客様のニーズにマッチした。カラーバリエイションは、同業他社が5種類くらいに対して、30種類以上のラインナップがあり、特に「瑠璃色」は山村製壜所を代表となる色として認知されている。 このような独自性を活かして、低迷するガラスびん業界の中でも着実に業績を上げている。

    ■山村製壜所の強み~オリジナリティのある形を実現する金型技術~
    ガラスびんを製造する中で、大きいびん、小さいびんを同じラインで製造するのは技術的に難易度が高い。 同じラインで大小違う型を使うと、ガラスの引き上げ量が一定にならないからだ。これを長年蓄積した技術力でクリアし実現したことで、 オリジナリティあるデザインのガラスびんを小ロットでも生産することができるようになった。

    「キリンウイスキー 富士山麓ブレンテッド18年」は、ボトルの底に富士山が彫り込まれており、斬新なデザインで、2016年GOOD DESGIN AWARDでGOOD DESIGN賞など様々な賞を受賞した。 ボトルの底が肉厚だと、歪が起きやすく高度な技術を必要とするが、3年がかりの開発で実現した。 ウイスキーの琥珀色が富士山の頂上から裾野にかけて絶妙にグラデーションされ、まさに夕焼けに包まれた富士山のようなデザインになっている。

    ■今後の展開
    ガラスびん業界は全体的には緩やかな下降をたどってきたが、その中でも近年ではウイスキーブームやアロマ、ジャーブームなどのガラスびんが必要とされる場面も多くなってきている。 ミスタードーナツが販促用で販売していたブルックリンジャーは全国的にブームとなり、山村製壜所の知名度も上がった。 ハンドリングの難しさから流通の課題はあるが、決してガラスびんは嫌われてはいない。限られた供給能力の中で、いかに付加価値を高めるかが重要になってくる。 また、来春に全炉同時炉修を計画しており、思い切った設備投資になる。しかしながら、10年先を見据え、次の世代につなげていけるようにしたいという。