工業会活動報告

展示会講演会 参加・見学報告

第83回応用物理学会秋季学術講演会 視察報告

目的:    ガラスに関する講演を受講し、ガラス業界の最新の技術情報を調査した。

内容;

  • 講演会の概要

 本講演会は、年二回開催される応用物理学会学術講演会のうちのひとつで、今年は国際ガラス年にちなんだ二つのシンポジウムが開催された。このシンポジウムを中心に、興味を引いたいくつかの講演内容を報告する。

1)最先端で活躍するガラスとガラス状態

~2022年国際ガラス年IYOG記念シンポジウム~

ガラス転移の理論研究の最近の話題~非線形レオロジーを中心にして

(名大物理)

 ガラスとは、一言でいえば、液体を冷却した際に結晶化に失敗した物質の総称であり、液体がガラスに変化する現象をガラス転移と呼ぶ。ガラス転移を熱力学、動的、ミクロ動的には説明できるが、そもそもガラス転移は相転移とよべるのかどうかで議論されてきた。最近は研究が進み、次の二つで説明されようとしている。一つ目は平均場理論でエネルギーランドスケープ理論とも呼ぶ。もう一つは動的理論で、これは端的に言うと、ガラスが遅いのは欠陥商品だからということである。これらによって相転移であることが実験的に説明された。

スピングラスから量子アニーリングへ

(東工大)

 スピングラスとは、電子スピンがランダムに凍結した状態の物質のことである。スピングラスは材料としてはほとんど役に立たないが、その研究がのちに色々な展開をみせるようになる。広範な社会的応用を持つ組み合わせ最適化問題が、スピングラスの基底状態探索として適式化できるため、スピングラス問題が物理以外の分野からも注目されることになった。その例が、脳の連想記憶の研究であり、量子アニーリングである。これにより、きわめて難しい複雑な計算が、高速に解くことが可能になる。

ガラスが織りなす光ネットワーク ―社会課題と今後の展望・期待―

(東北大学)

 光ネットワーク通信のコア部品として光ファイバが機能している。光ファイバはコアとクラッドという屈折率が微妙に異なる2種の石英ガラスで構成されている。光ファイバの特徴は低損失であることだが、短波長領域はレイリー散乱、長波長領域は赤外吸収があるので、波長1.5μm付近が最も損失がすくない。メタルケーブルが10dB/kmであることに対し、光ファイバは0.2dB/km (透過率は96%)とかなり低損失だが、それでも長距離になると、20dB/100km(透過率は1%)となってしまう。そこで、1989年にエルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA)が開発され光パワーを1,000~100,000倍に増幅することが可能になった、現在は海底ケーブルの80㎞毎にEDFA を設置している。

光ファイバは過去20年間で3桁の大容量化を実現してきたが、情報量は年率40%で増加しており、このままでは対応できなくなる。そこで、日本の産学官連携で、3つのMの技術を開発している。一つ目のMは多値変調伝送方式(QAM伝送)で、位相が直交する二つの波を合成して搬送波とし、それぞれに振幅変調を施して情報を伝達するものである。26x26の4,096値の超多値変調伝送の実験を行い、15.8bit/s/Hzという利用効率を実現した。二つ目のMは、マルチコアファイバで、1本のファイバの断面に複数のコアを持つファイバを作成した。19コア、37コア、36コアのファイバが作られたが、最近では4コアで直径が重体と同じ125μmの外形を持つファイバの実用化が進められている。三つ目はマルチモード制御というもので、同時に複数の信号をのせる技術である。これらの技術を組み合わせることにより、情報の大容量化に対応する技術開発の実用化がすぐそこまで来ている。

ナノ多孔質ガラスデバイスの開発と超早期がん診断への応用

(名古屋大)

 がん細胞は大量のエクソソームを放出する。そのエクソソームの直径は20~500nm。しかし、体液からエクソソームを分離するには一般的に遠心分離機を使うが、非常に時間がかかり工程が複雑で効率も悪い。そこで、エクソソームの分離に3次元網目構造を持つ多孔質ガラスを使用する方法を開発した。ガラスはSiO2-B2O3-Na2Oの組成をもつホウケイ酸ガラスで、熱処理でスピノーダル分相を起こして、熱処理・アルカリ処理を経てホウ酸リッチの可溶相を溶出させて多孔質ガラスを得た。このガラスを用いることで、短時間・高効率。簡便なエクソソームの分離装置が開発され、AGCからEVAGLAXという商品名で発売された。

アモルファス酸化物の半導体とその社会実装

(東工大)

 アモルファス半導体は、1950年にa-Seがコピー機に使用されたことから実用化がスタートした。その後、1960年代にa-カルコゲナイドがDVDに用いられ、1975年に生まれたのが、a-Si:H(水素系アモルファスシリコン)である。アモルファスシリコンは薄膜が作りやすく、かつ、安価に製造できる特徴がある。その特徴を生かして、TFT(薄膜トランジスタ)の駆動素子として使われるようになった。しかしながら、構造の乱れや電子移動度の小ささから高精細LCDやELの駆動は困難と言われてきた。そこで登場したのが、n型透明アモルファス酸化物半導体(TAOS)で、その一つであるInGaZnOx(IGZO)は電子移動度が高く薄膜化が容易であることから、大型液晶テレビのみならず大型有機ELテレビにも使われている。各組成の役割は、In:高電導度、Zn:アモルファス構造の安定化、Ga:キャリア濃度をコントロール、O:全体の安定化、である。

2)ガラス系イオン伝導体の最前線

~2022年国際ガラス年IYOG記念シンポジウム~

硫化物系ガラス電解質を用いた全固体電池の固体界面形成

(大阪公立大)

 一般的に、リチウムイオン電池を構成しているものとして、負極材(主に炭素)、正極材(主にLiCoO2など)、そしてリチウムイオンが移動する電解液がある。電解液は有機電解液が多く使われているが、安全性から液体ではなく固体であることが望ましい。それが固体電解質で、硫化物系ガラス電解質を用いると、全固体電池が可能になる。固体電解質の課題は、電解質物質の開発と、固体-個体界面制御の二つが挙げられる。これらの研究はここ10年で10倍以上の論文がでている。硫化物系電解質は常温加圧で焼結して成形体をえるが、Li3PS4の電解質ガラスは同一組成の結晶と比べて高い成形性を持つ。高い成形性によって、良好な電極-電解質界面を有する全固体電池が構築でき、高出力の充放電も可能になる。硫化物の特徴として、やわらかさが挙げられた。

ガラスを用いた酸化物固体電解質開発

(オハラ)

 全固体二次電池の課題には、低温処理での界面形成、電解質の温度特性改善および低温焼結での高イオン伝導化などがある。それに対してガラスを用いた三種類の酸化物固体電解質(低温焼結用リチウムイン伝導性ガラス、耐還元性固体電解質、高イオン伝導性固体電解質)の合成と評価を行った。それぞれの課題に対してのガラスの有効性が確認された。

一般セッション

放電プラズマ焼結法を用いて作成されたSiO2ガラスの構造

(産総研、他)

 SDG’sの観点から省エネルギー加工プロセスは重要な検討課題であるが、放電プラズマ焼結(SPS)法で、SiO2ガラスの低温低時間溶解を試みた。SPSは高圧力下で直パルス電圧を印加することで、粒子間にミクロ放電を起こす技術で、原料となるSiO2粉末は25μmの粒度のものを使用した。6MPa、1400℃の低温で20分間加熱をして、SiO2ガラスを得られたが、通常の溶融法のSiO2ガラスと比較して、高い密度と弾性率を示した。

Ti3C2MXene分散によるホウケイ酸ガラスの破壊靭性向上

(産総研、他)

 ガラスの強度は本来20MPaの強度を持っているが、実際の強度は1%以下である。その理由は応力集中によるものである(亀裂が走る)。その応力集中を回避するための方法として、数nm以上の金属微粒子を分散させる技術が報告されている。亀裂の自由工程が短くなり、強度が大幅に向上されるが、多量の金属微粒子を必要とした。そこで、MXene相というウエハースのような構造を持つ遷移金属の炭窒化物(Ti3C2MXene、平均粒子サイズ5μm)をホウケイ酸ガラスに分散させところ、約4割破壊靭性が向上した。

溶融急冷法による超高ヤング率・低線膨張酸化物ガラス

(愛媛大)

 高ヤング率酸化物ガラスは半導体パッケージング向けガラスとして軽量化・薄肉化の要求が高い。また、シリコンとのマッチングから、高ヤング率、低熱線膨張特性も必要とされている。そこで、Ta2O5を高濃度に含有するアルミノシリケートガラスにおいて、CaOをMgOに置換したガラス組成を複数比較した。ガラスは原料を白金るつぼで1650℃、5時間溶融したのち、モールドにキャストすることで急冷凝固させた。20MgO-15Ta2O5-30Al2O3-30SiO2-5B2O3の組成のガラスが、3.5ppm/K以下の低線熱膨張性と、135MPaの高ヤング率を得た。

SnおよびFeSn2ナノ粒子複合セラミックスからなるナトリウムイオン電池負極の創製

(長岡技術科学大)

 ナトリウムイオン二次電池の有望な負極活物質としてスズ合金があるが、反応時の体積変化による電極の破壊と、副反応で生じる不可逆容量が課題であった。そこで、ガラス結晶化と還元熱処理という簡便な方法でスズナノ粒子を形成することで、副反応を抑制し、不可逆容量を大幅に減少させた。さらに、鉄を含有させたスズケイ酸塩ガラスを作成したので報告する。溶融急冷法で作成したSiO2-Fe2O3-Na2O系ガラスとSnOをボールミルで反応させた後、還元雰囲気で熱処理を施し結晶ナノ粒子を析出させた。これを負極材として充放電サイクルを評価したが、不可逆容量の低減と安定したサイクル特性が得られたので、二つの有望な活物質を複合化した負極物質が得られたことが確認できた。また、残存するガラス相の軟化流動と合わせて、全固体電池への展開が期待される。

感想

 ガラスは古くから存在する材料であるが、最先端の分野でも進化をつづけていることに感銘を受けた。特に今後増大する情報通信や全固体二次電池の分野では、重要な役割を担っていくと思われた。また、身近なガラスの課題としてガラスの強度があるが、強度向上のアプローチとして、新しい試みが試されていることに興味を覚えた。

開催日程 2022年9月20日~23日
参加人数 1人
場所 東北大学川内北キャンパス