日本セラミックス協会 第66回ガラス及びフォトニクス材料討論会OPIE’25 視察報告
2025年12月9日
日本セラミックス協会主催の「ガラスおよびフォトニクス材料討論会」に参加した。本討論会は、かつて「ガラス討論会」という名称で開催されていたが、ガラス分野のみでは参加者が十分に集まらなかった時期があり、フォトニクス材料を加えることで討論会を維持してきたとされている。しかし現在では、33件の講演のほぼすべてがガラスおよびガラス関連材料に関する内容であり、「ガラス討論会」という名称に戻してもよいのではないかとも感じた。
以下では、これらの講演のうち、特に興味を引いたものを中心に報告する。
1A01 ガラス組成探索の高度化に向けたマイクロガラス溶融システムの開発 –ガラス研究振興プログラム成果報告–
東京科学大学 岸 哲生 氏
マイクロ溶融システムの開発を行った。ガラス組成は周期律表のほぼすべての元素が候補となるので、事実上無限に存在する。その中で最適な組成を見出すには、多くの溶融試験を行う必要があるが、秤量、混合、溶融、急冷、物性評価をロボットで行ったとしても、一日に200個が限界である。そこで、ガラス組成探索を劇的に加速する為のハイスループットマイクロ溶融システムを開発した。
まず、創薬の世界で使用されている、少量の試料をアレイ状に形成(アレイ状のマイクロウェルに少量ずつ載せる)する方法を使用して、組成をふったZrO2添加SiO2ガラスを作製した。原料をエタノールでスラリー化し(スラリーコンピナトリアル法)、Pt-Au材質のマイクロウェルに少量ずつ載せて一度に熱処理を行うことで、一日1,000個以上のテストが可能になった。Pt-Au合金なのでガラスを簡単に剥離できるので再利用が可能である。(Ptだけだとフッ酸処理が必要)
次に、レーザーマイクロ溶融法によるカルコゲナイドガラスの作製を行った。通常、吸湿性のあるカルコゲナイドガラスの溶融は、真空にした石英管内で行うが、これをレーザーマイクロ溶融法で試した。硫化物を窒素雰囲気中で石英マイクロウェルに原料を載せて、980nmレーザーを照射して溶解した。原料は均一に混ぜるよりも、層状に充填した方が均一なガラスが得られた。その理由は、レーザーは熱源が小さいので、局所的にしか溶解ができない。それでは、均質な融液作成に必要な液だまりができない。そこで、レーザーが最初に照射される上層部に溶けやすい原料を載せることで大きい液だまりができ、均質なガラスの作製が可能になったと考えられる。
1A02 化学強化ガラスにおける圧縮応力の新描像 ―GIC/NGF ガラス研究振興プログラムの成果報告と展望―
東北大学 寺門 信明 氏
GIC/NGFガラス研究振興プログラム(2022~)で、化学強化ガラスにおける原子スケール強化モデルの構築(イオン交換によるガラスの強度アップのメカニズムの解明)を行った。イオン交換の効果は、巨大なイオンに置換するという埋め込み効果で表面に圧縮応力を発生させるのだが、応力が発現する原子スケールの現象が判っていない。種々の検討の結果、熱力学的モデルと実験結果により、応力の発現はランダムネットワークをもつガラスに与えられた特権であることが明確になった。
1A03 高靭性と透明性を両立する金属添加ガラスの開発
産業技術総合研究所 篠崎 健二 氏
従来は0.5vol%程度の金属(Au、Cu、Ni等)の添加で、3倍の破壊靭性を持つガラスの開発が出来たが、金属の自由電子による光吸収の為に可視域の透明性を得ることが困難であった。そこで、透明性の高い材料を得るために検討した結果、すべり面が多いFCC(面心立方格子)金属のAlに着目した。透明性を損なわない微量のAl粒子(0.1vol%以下)を添加したシリカガラスを作製したところ、30%の破壊靭性の強度アップが得られた。もっと添加量を増やすとさらに強度はアップするが、Alが凝集体を生成する為に、透明性を維持しながら添加量を増やすことは難しい。さらなる探索を行いたい。また、透明性確保のアプローチとして、ゾルゲル法で金属粒子を含んだ層を塗布することも行った。
P123 光反応性シランカップリング剤を用いたガラス表面の直接パターンめっき
岩手大学 桑 静 氏
金属メッキの新しい方法を開発した。湿式なのでTGV(ガラスに作った貫通孔の側面)にも対応。しかし、得られるメッキはニッケルなので、半導体の基板として使うための銅メッキを作製するには、ニッケルメッキの上から銅メッキをする必要があり、銅の剥離強度が低い。また、基板として無アルカリガラスは問題が無いが、ソーダライムやホウケイ酸ガラスはアルカリイオンが不安定に反応するので、強度が弱くなる。
P126 バーチャル空間での再現を念頭に置いたガラスの双方向反射率分布関数測定
産業技術総合研究所 正井 博和 氏
表面凹凸をもつガラスをCGで再現するときのパラメータモデルを開発している。金属表面の凹凸であれば、光の透過が無いので作成は簡単だが、ガラスは光を透過するので非常に複雑になる。凹凸表面のガラスを種々の条件で光特性を測定し、データ化し、CGで描いた。この技術が完成すれば、CG上で種々のガラス表面租度や形状を表現できるだけでなく、CGから実際の凹凸のパラメータを数値化して、実物の開発にフィードバックすることが可能になる。CG化は立命館大が担当した。
P210 有機無機ハイブリッドガラス・低融点ガラスの開発状況報告
石塚硝子株式会社 吉田 幹 氏
有機バイブリッドガラスとして、シランカップリング剤を使った熱硬化および紫外線硬化のタイプと、SiO2を若干加えて500℃程度の熱溶解が必要なタイプを開発中。前者は塗布やコーティングに適し、後者はバルク形状ができる。この技術の容器への展開の可能性を聞くと、コストがかかりすぎるので全く考えていないということだった。光半導体の導波路等がターゲットになる。
2B01 透明導電性フッ素ドープスズホウ酸塩ガラス
愛媛大学 三宅 健太 氏
酸化物ガラスに電子導電性を付与する目的で開発を行っている。透明導電性酸化物の定義は、室温で約1.0×104 S/cm の導電率、可視光域において80%以上の透過率である。過去、ビスマス鉄酸化物ガラスへのフッ素ドーピングで、4桁電導度が向上したが、それは透明性が無かった。そこで、透明性と導電性を併せ持つ材料としてフッ素をドープした酸化スズホウ酸塩ガラス(SnO-SnF2-B2O3ガラス)に着目した。Tg以下で熱処理したところ、500nm以上の可視透過率80%以上、室温電子伝導率5×10-4S/cmのガラスが得られた。熱処理前の電子伝導度は2桁低かった。熱処理による電子伝導度向上は、フッ化スズ等のナノ単結晶の分散によるキャリアーのホッピング伝導によるものと考えられる。
感想
ガラスの組成範囲の探索は非常に時間が掛かるイメージだったが、一度に100種類以上の試験溶融ができるマイクロ溶融システムは画期的なアイデアと感じた。加熱法だけでなく、真空下で近赤外レーザーを使って溶融する方法は、大気中で溶融できないカルコゲナイドガラスに応用可能であり、その技術的な有用性に強い驚きを覚えた。
